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久保寛子「定尺のミソロジー」

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作品タイトル「Gynandromorph・ジナンドモルフ」
撮影:浅野堅一

 

オープニングレセプション&トークイベント

日 時:10月3日(土)15:00 – 18:00

▪︎トークイベント 15:30 – 16:30
ゲスト:戸倉一氏 VUILD(株) デザイナー

 

LOKO GALLERYでは二度目となる久保寛子の個展「定尺のミソロジー」を10月2日より開催いたします。
ぜひこの機会にご高覧いただければ幸いです。

 


 

定尺のミソロジー

「25ミリの角パイプ、定尺で6本お願いします。」業者に鉄を注文するとき、このような言い方を
する。「定尺」(ていじゃく)とは、資材を効率的に加工、流通させるために標準化された規格
サイズのことだ。

鉄に限らず、さまざまな工業資材を彫刻の素材として扱う中で、どの製品にも必ず決まったサイズ
があるということに気づいた。製品を作る人間、機械、輸送車両のキャパシティに合わせて決め
られた規格は、大量生産社会を象徴するモジュールである。

一方、工業化のはるか以前から使われてきた「寸・尺・間」、「インチ・フィート・ヤード」と
いった単位系は、いずれも人間の指や足の長さを基準にした「身体尺」である。それらは現在で
も建築や土木の世界で、空間の美しさや構造の合理性を生み出す基準として使われている。

ビルの建設現場を囲う青い防風網。ゴミ捨て場の黄色いネット。山積みされた異形鉄筋。屋根を
覆うブルーシート。機能性と効率性に特化された短命の消耗品たちが、農村や都市空間の中で美
しく輝いて見える瞬間がある。

かつて人類が自然や人体の中に美の基準を見出してきたように、現代社会の尺度という観点か
ら、彫刻の可能性を検証してみたいと考えた。

人新世と呼ばれる新たな地質時代は、地層に何を刻むのだろうか。石油とコンクリートによって
築かれた豊かな文明は、あとどれくらい続くのだろうか。人類史終焉の足音を遠くに聴きなが
ら、私に今できることは手を動かすことくらいだ。

久保寛子

 


 

カニエ・ナハ(詩人)

 

詩人の中原中也が記した「芸術論覚え書」には、冒頭「「これが手だ」と、「手」といふ名辞を口にする前に感じてゐる手、その手が深く感じられてゐればよい」と記され、名辞以前、すなわち名付けられる前の感覚を、しかも詩という、言葉が素材である芸術によって表出しようという姿勢が示され、それは畢竟、困難極まる路だったが、中也がもし、彫刻家であったとしたらどうだったろうか?あるいは中也が久保さんの彫刻と対峙したとしたら、なにを直感しどんな言葉を発しえただろうか。

…というようなことを、中也の故郷の山口・湯田温泉でボンヤリ考えている。昨日東京から新幹線に乗ってやってきた。途中、久保さんの故郷の広島を通過しつつ。それにしても新幹線に乗って移動すると、そのあまりの速さに、時空間の尺の感覚が歪む気がする。

今回の展示で久保さんがタイトル、テーマに掲げている「定尺(ていじゃく)」。わたしには馴染みのない言葉だったが、建築や工業資材における標準的な規格・サイズのことだという。「尺」という表記に、昔ながらの職人たちが使ってきた言葉の響きが聴こえるようにおもう。

「尺」という漢字の字源にあたってみると「象形。手の指の、拇指と中指とをいっぱいに広げて、下向けにした形。上部は手首の部分、下部の八の部分が両指を広げた形」とあり、その文の下に指を八の字に広げて尺を計る手が図解されている(「白川静 常用字解」)。今回のステートメントで久保さんが「身体尺」と記しているが、太古から現代にいたるまで、あるいはさまざまな地域において、どれだけ文明の表徴が異なり、例えば建築の様式が異なり、あるいは時代とともに変化しても、それを作ってきた人間の手のかたちは、ほぼ変わっていないということに気づく。

久保さんは展示毎に、その地域や自身がこれまでのキャリアにて螺旋を描くようにして積み重ねては変奏してきたモチーフ(先史芸術、民族・民族学、文化人類学……等をベースとする)にまつわる緻密なリサーチを、ひとまず言葉、名辞にてインプットし咀嚼した上で、制作の現場において頭で考える以上に手を動かし、手で考え、「名辞以前の手」が深く直覚するものを造形にて現前させていっているように見える。

(『青の太陽 緑の月』の表紙にあしらわれたドローイングは、その思考する手が、名辞以前の造形を手繰り寄せる、生成の過程の軌跡を描いているようで、魅せられる。ジャコメッティのドローイングのことなども思い出させるが、ジャコメッティの苛烈さではなく、風と光とを透過する、久保彫刻のシグネチャーというべき肌理と同種の、かろやかさのもつ豊かさをたたえている)

また近作では、「自分より高い技術を持つ人の手を借りて、作品のクオリティを上げる」試みもしているという。その太古から現在、未来へと連繋する手が、人類の手が、その技術と祈りとともに久保さんの手へと重なりあい、未知の、名辞以前の彫刻の時空間へといま結実している。

その時、定尺の素材たちは、新しい神話(が、同時に神話学でもある。優れた詩が詩学を、優れた彫刻が彫刻論を、内在させているのと同様に)のコンテクストに置かれて、わたしたちの前に未知の尺度を示し、わたしたちは芸術を、そしてこの社会、世界、宇宙…を、ふたたびおのおの自らの手で、測りなおすことへといざなわれている。

 



久保寛子 CV – Hiroko Kubo

1987年広島県生まれ。千葉県旭市拠点。
テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。

先史芸術や民族・民俗芸術、文化人類学などにまつわる学説のリサーチをベースに、ワイヤー
メッシュや農業用シート、防風ネットなどの工業製品を用いて彫刻作品を制作している。自然の
脅威や遺物の破壊と再生、周縁化されてきた女性の表象などをテーマに、神話や祈りがかたち
をなす偶像や、人々の暮らしの中から生まれた実用品に宿る美について、久保は作品を通じて
現代的な視点から再考を促す。Casa Wabiレジデンスアーティスト(2025年)、広島文化新人賞(
2022年)、六甲ミーツ・アート公募大賞(2017年)受賞。KAMU KANAZAWA(石川)、おおさか創
造千島財団(大阪)、株式会社 IZAK(富山)などに大型作品が収蔵されている。2017年より広島
で「オルタナティブスペース コア」を運営している。

 

▪︎ 学歴
テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了 2013
広島市立大学芸術学部彫刻専攻卒業 2009

 

▪︎ 個展
「アートドキュメント2026 青の太陽 緑の月」金津創作の森美術館(福井)2026
「鉄骨のゴッデス」POLA MUSEUM ANNEX (東京)2024
「鉄骨のゴッデス」金沢市民芸術村 (石川)2024
「Street Amulets」Blind Alley Projects(テキサス州・フォートワース)2023
「ISAAC」LOKO GALLERY(東京)2022
「Wisdom of the Earth」ヒロセコレクション(広島市)2020
「Wisdom of the Earth」ギャラリーヤマキファインアート(神戸市)2020
「ブリコラージュの女神」ギャラリーG(広島市)2017
「現代農耕文化の仮面」広島芸術センター(広島市)2013
「歴史的人間」公益財団法人泉美術館(広島市)2011

 

▪︎ グループ展
「アートのタカラミチ」福山(広島)2026
「あいち国際芸術祭2025」愛知芸術文化センター(愛知)2025
「宮島芸術祭 MAFIN(Miyajima Art Festival in the Narrative)」宮島弥山大聖院(広島)2024
「Hibiya Art Park 2025」日比谷公園(東京)2024
「花咲く暮らしラボ」伊良湖菜の花ガーデン(愛知)2024
「アートサイト名古屋城」名古屋城(愛知)2024
「Augmented Situation D」広島市中区(広島)2024
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」十日町川西地区(新潟)2024
「六本木アートナイト2024」東京ミッドタウン(東京)2024
「紀南アートウィーク」闘鶏神社(和歌山)2024
「MUSIC LOVES ART 2024 – MICUSRAT (マイクスラット) -」万博記念公園(大阪)2024
「第8回横浜トリエンナーレ アートもりもり!」象の鼻パーク(神奈川)2024
「GO FOR KOGEI」冨岩運河環水公園(富山)2023
「ロマンチック台三線芸術祭」客家文学ガーデン(台湾)2023
「高松コンテンポラリーアート・アニュアル vol.10 ここに境界線はない。/?」高松市美術館(高
松)2022
「テラスアート」湘南テラスモール(湘南)2021
「埼玉国際芸術祭 – 公募キュレータープロジェクト「I can speakー想像の窓辺から、岬に立つこと
へ」- 」旧大宮図書館(埼玉)2020
「カナリアが さえずりを 止めるとき」広島市立大学芸術学部CA+Tラボ / Alternative Space
CORE(広島)2020
「いのち耕す場所−農業がひらくアートの未来」青森県立美術館(青森)2019
「博多旧市街まるごとミュージアム」(博多)2019
「ちかくのたび」ボーダレス・アートミュージアムNO-MA(近江八幡)2018
「六甲ミーツアート2019」六甲山(兵庫)2019
「スマートイルミネーション横浜」(横浜)2018
「まつり、まつる」スパイラルガーデン(東京)、ワコールスタディーホール(京都)2018
「六甲ミーツアート2017」六甲山(兵庫)2017
「オソレイズム」はじまりの美術館(猪苗代)2016
「瀬戸内国際芸術祭2016」小豆島三都半島(香川)2016
「ENVIRONMENT」フロジノーネ芸術大学(フロジノーネ)2016
「拡張する地平線—日本現代美術展」53美術館(広州)2014
「Texas Biennial」ブルースター現代美術館(サンアントニオ)2013
「The Best」 Red Arrow Contemporary(ダラス)2013
「2012 MFA National Competition 」First Street Gallery(ニューヨーク)2012
「サン・アンド・スターの落し子」 Fort Worth Contemporary Arts/宇品県営上屋(フォートワース
/広島)2012

 

▪︎ 作品収蔵
金津創作の森美術館
神原汽船株式会社
LOKO GALLERY
おおさか創造千島財団
みやうち芸術文化振興財団
KAMU KANAZAWA
ヒロセコレクション
広島市立大学芸術資料館

 

▪︎ 受賞
広島市文化新人賞 2022
社会彫刻家アワード2021 (Alternative Space CORE)
六甲ミーツアート公募大賞 2017
海外留学奨学金(広島国際文化財団)2011-2013

 

▪︎ レジデンス
CASA WABI(メキシコ)2025

 

 

アーティストWEBサイト
https://hirokokubo.net/