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久保寛子「ISAAC」

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オープニングレセプション : 12月9日(金)  17:30-19:30

LOKO GALLERYでは2022年12月9日より2023年1月22日の期間、コロナ感染の影響により今年8月の開催予定から延期となっておりました久保寛子 個展「ISAAC」を前後半に分けて開催いたします。
久保は、広島市立大学芸術学部彫刻学科を卒業後、テキサスクリスチャン大学彫刻専攻美術修士課程を修了。
民俗芸術や先史美術、文化人類学の学説を主なインスピレーションの源に、身近な素材を用いて農耕や偶像等をテーマにした作品制作を行なっています。近年では瀬戸内国際芸術祭2016や六甲ミーツアート2017、さいたま国際芸術祭2020で大型インスタレーション作品を発表し注目を集めています。

会期|【前半】2022年12月9日(金)〜12月25日(日)/【後半】2023年1月11日(水)〜1月22日(日)


 

アーティストステイトメント

2018年1月私の息子は生まれた。2020年1月日本で新型ウイルスが拡大し始めた。
2022年2月隣国では戦争が始まった。
この数年で自分の人生や社会の様相が大きく変わった。

昨日できなかったことが今日できるような、毎日が可能性に満ちた子供の存在に対して、社会はその逆の方向に進んでいるような気がする。

パンデミック、戦争、気候変動、格差問題、目の前に立ち現れる不安に答えてくれそうな学説(加速主義、脱成長、テクノロジー、ポストヒューマニズム、、)は何一つ未来の明るい展望をみせてはくれない。
『サピエンス全史』の著者のユヴァル・ノア・ハラリは言う。
“We should never underestimate human stupidity.”
どうやら約20万年続いてきたホモサピエンスの時代は終わり始めている。そしてその終わりは想像以上に間近だ。

未来への絶望の淵に立ち、そこから何を見、何をするか?図らずもこの大きな問いに向き合わされた時、自分ができることはやはりこれまでやってきた彫刻=今生きているこの時代を、この時代にある素材で表象することだと思った。なぜならば自分自身が、過去の彫刻たちに感銘を受けてきたし、ヒトとして生まれ生きていく事の神秘を教わったからだ。

私が専ら創作のお手本とするのは、博物館や遺跡に陳列された、art(芸術)以前のartifact(人工物)である。
それらが作られた数千年、数万年前の価値観は今の私には計り知る事ができない。しかしその”もの”が時空を超えて何かを確実に伝えてくることがある。”はじめにロゴス(言葉)ありき”はキリスト教の思想だが、民族芸術学者の木村重信が説く、”はじめにイメージありき”を私は信じている。

彫刻は人間と同じく体積を持ち、同じ物理空間に存在し、同じ物理条件下で風化し壊れていく。その儚さや脆さが彫刻の愛おしいところではあるが、同時に人間の意思の力で(時には偶然)数万年、数十万年間もこの世界に遺ってるという事実が、彫刻というアートフォームの強さも教えてくれるし、私が彫刻を続ける原動力の一つとなっている。

ISAACは、旧約聖書に登場する始祖の名前で欧米ではよく男性、特にユダヤ人のファーストネームに使われる。
英語ではアイザック(Isaac)、ヘブライ語ではイツハク(קחצי)、ギリシャ語ではイサキオス(Ισαάκιος)と発音は様々で日本ではイサクと読まれる。子供の名前を考えているとき、ふと本棚にあった矢内原伊作の本が目に入った。彼は彫刻家ジャコメッティの友人であり哲学者である。イサクという聞きなれない名前に興味を持ち調べたところ、その語源は「彼は笑う」という意味であることを知り、世界中で使われる名前でありながらどこか古い日本語の響きも持つこの名前が気に入り息子の名前「伊朔」とした。

矢内原はジャコメッティとの対話を記した著書でこう述べている。
「芸術の歴史に発展進歩はない。反復停滞もない。衰退低下があるだけである。」(芸術家との対話, 1984)
現在4歳の息子が50年後、はたまた100年後観ている世界にはどのような世界であろうか。

遠い未来にも人間(または人間的な何者か?)に生きる意味を与える良き創作物が遺っていて欲しい。そして自分の生がその一助となれば幸いだ。ホモサピエンスの先人たちが世界に遺した偉大なイメージの数々のように自身の創作物が人類のマスターピースとなることを願って。

2022
久保寛子

 


 

有形のしなやかな越境

民俗芸術や先史美術、文化人類学の学説を手掛かりに、農耕や偶像への関心を独自の手法で彫刻化する久保は、その思考や表象を人間の特権や固定化された枠組のみで捉えず、非人間への指向も視野に作品制作を展開しています。

広島の山間部で育ち、現在も広島市内を活動拠点(*1)とする久保は、美術修士を修了したアメリカ・テキサスで自身のその原風景を俯瞰する機会を得ています。夏は乾いた熱風に覆われる土地でミニマルアートが圧倒する風土に日本の湿潤で真逆な気風の特殊性を対比させた彼女は、同時にヘテロセクシュアルな白人男性を中心とするアート界において、日本人であり女性である自身が確かに周縁化された存在であることを強く認識します。特定の歴史認識と権力構造の関係性の中で形成される文化表象を、異質な時代や歴史概念で解体、再構築し、それら断片から別の可能なナラティブを想像し視覚化する力の必要性を観取した久保は、独自の視点でその実践を継続しています。

キリスト教の根強いアメリカでの体験を経て制作された初期の作品「Cultivated land」(2013年)には日用品の廃材と水が使われ、一神教からは生まれえない<モノも神になる>という考えが反映されています。つづく中国・広州で発表された「Urban Cultivator」(2014年)で農耕を主とする地方と大都市の間に横たわる急激な経済発展がもたらした不均衡に眼差しを向けた久保は、瀬戶内国際芸術祭2016での「泥足/ Muddy feet」(2015年)において、過疎化が進む日本の農村地域で生じている野生動物による獣害被害に着目します。素材に入手が容易で予防対策に使用されている鉄と防風ネットを取り入れたこの作品は、⻑年その土地で営まれてきた労働と生産へのオマージュであり、古代から続く自然の脅威への対峙と共生の表象でもあります。また、大量消費される工業資材を素材に採用する久保の、枠組みがありながらも軽量で空洞なその彫刻手法は、彫刻の歴史で培われてきた権威的で男性的、重量があり多くの廃棄物を排出する属性への反定立でもあるのです。

2017年の個展に際して執筆されたテクスト「ブリコラージュの女神」において、久保は文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロースが『野生の思考』で神話的思考を示すために用いたブリコラージュ概念を自身の<手しごと>と<思考>の方術として採用しています。モノを作るという普遍的行為を通して思考の断片を手に入れることは彫刻のイメージの歴史を再考することでもあると考える彼女は、彫刻における4つの解体についての考察を試みた「ハイヌウェレの彫像」(2020年)で、女性を表象した縄文土器が常に一部欠損している事実を神話に接続して読み解く学説に注目し、断片や不完全な形状が放つ強力な存在感とエネルギー、破壊や風化、再生から見える物語性を探っています。

そしてその解釈に開かれたモノの在り方や行為性と人間社会の関係性という視点は、今回の個展「ISAAC」で更に拡張されています。全世界が抗うことすらできずに突入した過去2年余に及ぶパンデミックという例外状態は、思考の可能性を条件づける地殻を大きく揺るがしました。それらが個人や共同体にもたらした現在地を再考し、複雑に不可視化された歪みを具体的なナラティブと形象で紐解こうと試みる本展では、久保の考究する過去と未来の双方が有形に展開されてゆきます。人工物(artifacts)が並ぶ博物館を模した空間で展示されるそれらへの解釈は常に開かれていて生成過程にあり、特定の時代や場所と結びつきながら提示される異種性と時間の複数性は、思考を特定の文化的同一性への停留から逃れさせ、新たな想像力を促してゆきます。

山越紀子(共同キュレーター)

(*1) 同地では、夫の水野俊紀(Chim↑Pom from Smappa! Group)と共に Alternative Space COREも運営している(2017年オープン)。スペースでは現代美術の展覧会をはじめ、幅広い文化ジャンルにも開かれたプログラムを地域コミュニティに展開している。

山越紀子 プロフィール
インディペンデント・キュレーター、ライター。チューリッヒ芸術大学(キュレーション)修士。
主な近年の展覧会に「Games.Fights.Encounters」(2020-2021)「Choreographing the Public」(2019-2020)、共同執筆に「la_cápsula – between Latin America and Switzerland: An Exploration in Three Acts」(2020)、インタビューエッセイに「《MJ》田村友一郎」(2019)など。


 

久保寛子  CV
1987年 広島市出身

学歴
テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了 2013
広島市立大学芸術学部彫刻専攻卒業 2009

個展
「ヒト新世の群像 – A GROUP PORTRAIT OF ANTHROPOCENE -」ギャラリーヤマキファインアート(神戸市)2022
「Wisdom of the Earth」ヒロセコレクション(広島市)2020
「Wisdom of the Earth」ギャラリーヤマキファインアート(神戸市)2020
「ブリコラージュの女神」ギャラリーG(広島市)2017
「現代農耕文化の仮面」広島芸術センター(広島市)2013
「歴史的人間」公益財団法人泉美術館(広島市)2011

グループ展
千島土地コレクション「 TIDE – 潮流が形になるとき – 」クリエイティブセンター大阪他 (大阪)2022
「高松コンテンポラリーアート・アニュアル vol.10 ここに境界線はない。/?」高松市美術館(高松)2022
「テラスアート」湘南テラスモール(湘南)2021
「埼玉国際芸術祭 – 公募キュレータープロジェクト「I can speakー想像の窓辺から、岬に立つことへ」- 」旧大宮図書館(埼玉)2020
「カナリアがさえずりを止めるとき」広島市立大学芸術学部CA+Tラボ / Alternative Space CORE(広島)2020
「いのち耕す場所-農業がひらくアートの未来」青森県立美術館(青森)2019
「博多旧市街まるごとミュージアム」(博多)2019
「ちかくのたび」ボーダレス・アートミュージアムNO-MA(近江八幡)2018
「六甲ミーツアート2019」六甲山(兵庫)2019
「スマートイルミネーション横浜」(横浜)2018
「まつり、まつる」スパイラルガーデン(東京)、ワコールスタディーホール(京都)2018
「六甲ミーツアート2017」六甲山(兵庫)2017
「オソレイズム」はじまりの美術館(猪苗代)2016
「瀬戸内国際芸術祭2016」小豆島三都半島(香川)2016
「ENVIRONMENT」フロジノーネ芸術大学(フロジノーネ)2016
「拡張する地平線 – 日本現代美術展」53美術館(広州)2014
「Texas Biennial」ブルースター現代美術館(サンアントニオ)2013
「The Best」Red Arrow Contemporary(ダラス)2013
「2012 MFA National Competition 」First Street Gallery(ニューヨーク)2012
「サン・アンド・スターの落し子」Fort Worth Contemporary Arts/宇品県営上屋(フォートワース/広島)2012

作品収蔵
KAMU KANAZAWA(金沢) ヒロセコレクション(広島)
広島市立大学芸術資料館(広島) 千島土地株式会社(大阪)

受賞
六甲ミーツアート公募大賞 2017
海外留学奨学金(広島国際文化財団)2011-2013

 

リンク
hirokokubo.net
さいたま国際芸術祭2020「I can speakー想像の窓辺から、岬に立つことへ」
「高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.10」
六甲ミーツ・アート 芸術散歩2017
千島土地コレクション「 TIDE – 潮流が形になるとき – 」