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安部悠介「決定的に自由であるために」

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画家・安部悠介による個展「決定的に自由であるために」を開催いたします。今年3月に美術大学院を修了したばかりの若手ペインターである安部ですが、そのストイックな制作力から生み出されるパワフルな作品群を武器に国内外で活動を重ね、少しずつ注目を集めています。本展覧会は、大学院修了後の彼の初個展となります。

今にも具現化しそうな躍動感に満ちたポップなキャラクターたち。あるいは絵画上にトレーディングカードやプラスティック製品を貼り付ける、キャンバスの上に別のキャンバスを重ねる、といった大胆な構成から生まれる異様な画面。安部の絵の前に立った時、まず目を引くのはこれらのキャッチーな要素です。そこには彼が少年時代から今に至るまで親しんできたゲーム文化や自然にまつわる記憶、そして絵画や美術史を地道に研究してきた彼独自の、批評的な視線や新しい絵画形式・様式の提示を読み取ることができます。

これらの諸要素を楽しむだけでも安部の作品は十分に魅力的です。しかしそれ以上に彼を絵画へと突き動かしているものは、もっと別の、名状しがたい何かです。

たとえば安部は、自身の画中でモティーフとして扱ってきた昆虫や魚、架空のモンスターたちと、絵筆によって引かれた何気ない一本の線とが、“全く同等の存在”であると語ります。昆虫は草むら、魚は水中、モンスターはカードやゲームの世界、それぞれの住処の環境に従って 成立し、生きています。安部は幼い頃から、昆虫採集や魚釣り、あるいはゲームをプレイすることを通してそれら別世界の住人たちと遭遇し、 自分とは別種の生命と環境を持った「彼ら」の存在に驚き、魅かれ続けてきました。そしてそれは、自らもまた彼らと何ら変わらず「人間の世界」という限定的な環境のもとで生きている、という自覚へと敷衍されていきます。

高校時代に初めて油絵具を手にしてキャンバスに何気ない一本の線を引いた時、安部にはその色面が「彼ら」と同様に、それ自身が住む世界の仕組み、すなわち「絵画の世界」という環境に則って成立し、生命を与えられている存在に見えたそうです。視覚芸術に対する彼の鋭敏な感覚の原点を示すエピソードだといえるでしょう。加えて絵画は、そのような自律的な環境を持つとともに、その作家自身の紛れもない痕跡でもあります。安部にとって絵具と筆は、自らの分身のような世界と、全く異なる未知の領域の両方に同時にアクセスするためのツールなのかもしれません。絵画が持つこのような両義性にのめり込み、安部は制作を積み重ねてきました。

本展のタイトルにおける「自由」という言葉が意味するものは何か? もちろん彼にとってそれは、絵画上に好きなものを貼り付けたり、奇抜な構成を施したり、といった表面的要素を示すものではないでしょう。安部にとっての絵画が、自分自身の生きる世界と別の生命が息づく異界の両方を把捉し、探求していくためのものだとするならば、そこにおける「自由」とは、一つには、複数の次元に存在するいくつかの世界に触れ、その環境から逃れられない各々の宿命を感じながらも、自らの持ち場で最大限に生命を燃やしていくことであるといえるのではないでしょうか。

本展は、これまでの安部作品の多彩な技法が網羅的に盛り込まれた最新シリーズと、ここ数年の大量の過去作品群の中から選び抜かれた重要なピースたちで構成される予定です。2018年から2019年へとまたがる会期のどこかでは、作品の入れ替えや追加も予定しております。いま最も誠実かつ切実に、そして真正面から絵画と向き合う期待のペインターのデビューを、1人でも多くの方に目撃していただければ幸いです。