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岡田佑里奈「RAW」

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◯オープニングレセプション:7月1日(金)17:30-19:30

7月1日より31日まで、LOKO GALLERYでは初となる岡田佑里奈 個展「RAW」を開催いたします。岡田は、2020年3月に京都造形芸術大学大学院芸術専攻ペインティング領域を修了。大学院在学中より、写真を素材とした作品を発表し「The Art of Color DIOR 2019」入選(2019年 フランス)、ART AWARD MARUNOUCHI 2018 後藤繁雄賞受賞(2018年 東京​)など精力的に活動しています。

岡田は、絵画と写真の融合を図っている作家として注目されています。支持体に定着させた半乾きのモデリングペーストに写真を転写し、乾燥する過程で生まれる“クラック”を表現の中に取り込んでいます。偶発的に生まれた“クラック”は「もののあはれ」のような、全てのものは永遠ではない、という無常観を視覚的に強く訴えかけます。

本展では、新たなモチーフを捉えた新作を発表いたします。都市をイメージして配置した蝋燭、船の上から撮影したカモメ、アトリエの近くにいる野良猫など、岡田が追いかける一瞬と永遠。その間に横たわる“朽ちる”という時間が織りなす作品群を是非ともご高覧ください。​​

 

全てのものは朽る

生きている花や女性、船にいる私を追いかけるカモメ
人間が作り出した建物
蝋は溶け出し、新たな形となり硬化する

全てのモチーフを長期にわたって撮影し、
シャッターの数だけ、時間を蓄積させていく

ー岡田佑里奈

 

すべてが消失してしまう前に (岡田佑里奈写真展『RAW』のために) 後藤繁雄
眼の前、強風に煽られた波が次々に走っていくのを見ている。それらは生命も感情も無い不条理なものなのに、生き物のように振る舞っている。いや、生物の方が、自然の不条理な力やモラルを模倣して振る舞っているに過ぎないのだろう。とりわけ刹那を意識してしまった人間においては。予言的な著書『写真の哲学のために』を書いたヴィレム・フルッサーは、文字と数字に引き続き、写真こそが人類を次に切り拓いた発明だと分析してみせた。彼はテクノロジーを操る写真家こそが、この世界で唯一、自由に振る舞えるホモ・ルーデンス(遊ぶ人)であるとして肯定した。それは、宿命的な虚無や、人間が自然に対抗して作り上げてきた都市のディストピアのブラックホールに、落っこちないための軽業を身につけるということだ。

岡田佑里奈が写真機を手にしたとき、これが彼女をトランスフォームし、かつ「別のところ」へ導いてくれる装置であることが即座に分かったろう。それは写真がアートであるか無いか以前に、とても重要なことだ。つまり、鏡や夢の中に入る技を知った人間のみがアーティストになる資格がある。そして、同時に、引き返せないという宿命の焼印も押されるということ。岡田佑里奈の作品の魅力は、写真と絵画の融合であると語られることが多いが、それは片手落ちだ。彼女が発明した「crack」は、単なる平面表現の新基軸ではない。女性や都市、鳥、花などの表象を単なるイメージではなく、裂け目という、消滅への宿命の印をマテリアルに刻み込むということである。「crack」は、その二重性により、生と死を同時に固定する。

新作の『RAW』もまた、ビルのように立ち並ぶ蝋燭が溶解し、燃え尽きる様を表象として選んでいる。すべてのものは、熱死に向かい、繰り返す宇宙の波に洗われ消滅していくのだ。 それは抗い難い宿命である。だから、岡田佑里奈の写真は、暗黒宇宙の惑星のように孤立している。しかしだからと言って、寂しいわけではない。絶望的でもない。岡田佑里奈の写真を見返すときに、それは鏡や夢の中から、「こちら」を見ることを知った者のみが発することができる、微笑みのようなものなのだな、と思うのである。

後藤繁雄 プロフィール
大阪府生まれ。編集者、クリエイティブディレクター、アートプロデューサー、京都芸術大学教授。「独特編集」をモットーに、 坂本龍一、名和晃平をはじめとするアーティストらの写真集、アートブックを数多く制作。近年の著書に『現代写真アート原論』(港千尋、深川雅文との共著)、『アート戦略2 アートの秘密を説きあかす』など。