EXHIBITIONS
保井智貴「誰彼のふちとパラレルワールド」
- Information
- Works
- DATE
- 2025-11-21 [Fri] - 2025-12-20 [Sat]
- OPEN TIME
- 11:00-18:00[Tue-Sat]
- CLOSE DAY
- Sun, Mon, National holidays
LOKO GALLERYでは初となる保井智貴の個展「誰彼のふちとパラレルワールド」を11月21日より開催いたします。
保井は一貫して「人から立ち上がる空気感とは何か」を主題に据え、その不可視の気配を捉え続けています。これまで、古典的で極めて扱いの難しい乾漆という素材を用い、人物像に空気の厚みを纏わせるような着衣像を制作してきました。ある作品を契機に乾漆による制作プロセスを中断し、自らの手業を解体、拡張するかのように、新たな方法論へと踏み出しています。
その新たな実践では、人物の形態を丸ごと3Dスキャナーによってデータ化し、3Dプリンターによって像を出現させるというプロセスが採用されています。作家の身体性を介さないデジタルの手業は、モデルと作家との距離を意図的に引き離すかのように作用しています。同時にそれは、水平線と直立像をめぐる座標軸の原点を探りつつ、より深い位相を見据える意志が見て取れます。
しかし、デジタル的プロセスによって「人物の空気感」を本当に捉えることができるのでしょうか。むしろ、その過程で生じる予期しない内外(うちそと)からのノイズは形態を緩ませ、輪郭を溶かすなど、表象の純度を揺さぶります。ただし保井は、まさにその揺さぶられた純度の中にこそ惹かれるものがあり、永遠に捉えきれない感覚にこそリアリティーがあり、かつ捉え切りたいという欲があると語ります。
AIの領域において「ノイズ」とはしばしば除去されるべきものとされ、個々の人間的な揺らぎすら不要な変数として排除されがちです。対して保井の実践は、不可視の空気感を求める営みとして、ノイズをただ消去するのではなく、その中に潜む別様の世界――すなわちパラレルワールドを探り当てようとするものです。
また、近年では、その探求を人物像からさらに拡張し、空間や環境そのものを“像”として捉える試みを続けています。
映像作品では、家や街の空気を彫刻的に扱い、また《彼の青(ラピスラズリ)》や《彫刻のための服と靴》の作品群では、身体の不在を媒介にして気配を捉えることを試みています。
これらの実践はすべて、「人」と「世界」のあわいに生じる空気のグラデーションを見つめる、連続した探求といえるでしょう。
ご来場の上、ご清覧いただければ幸いです。
EVENT
◯ 2025年12月6日(土)トークイベント 15:00- / レセプション 17:00-
「グラデーションの世界」
保井智貴 × 清家弘幸 × 阿久津裕彦
世界は、はっきりと線を引けるものなのでしょうか。
身体の内と外、自然と人工、過去と現在——
それらは明確に分かたれることなく、ゆるやかに溶け合いながら存在しているかもしれません。
今回のトークでは、彫刻、美術解剖学、ファッションという異なる実践を通して、
「境界のない連続」としての世界をどのように感じ取り、形にできるのかを考えます。
変わりゆく街の空気や、身体の輪郭、記憶の残像をめぐりながら、曖昧さの中に潜む何かを探っていきます。
清家弘幸 Seike Hiroyuki
1963年生まれ。1993年「SEIKE」コレクション発表。「ISSEY MIYAKE PERMANENTE」「MARY QUANT」「無印良品」などのデザイン、ディレクションを手掛ける。
阿久津裕彦 Akutsu Hirohiko
1973年生まれ。博士(医学)。東京造形大学彫刻専攻領域准教授。東京芸術大学美術解剖学講座等で美術解剖学、解剖学を教える。
◯ 2025年11月16日(日)トークイベント 15:00-17:00 ※このイベントは終了いたしました。
「設営と撤収のエクリチュール」
近藤恵介、冨井大裕、保井智貴
このトークイベントは、近藤恵介・冨井大裕 二人展「人かもしれない——なんとなくクラシカル」と今回の展覧会のあいだに生まれる“余白”を舞台にした試みです。
ひとつの展覧会が幕を閉じ、作品が梱包されて運び出される。
その一方で、次の展示の作品がほどかれ、空間に新たな気配が立ち上がっていく時間。 去りゆく思いと、これから始まる期待が交差するその時間と空間で、作家たちは何を語り合うのか。
意味ありげに、しかし確かに何かが生まれる瞬間を見つめます。
誰彼のふちとパラレルワールド/At the Edge of Twilight and the Parallel World
保井智貴
私は長く、「ある人の空気感」とは何かを捉えようとしてきた。
それは、目に見える姿や言葉ではとらえきれない何かなのだろう。
その人の内に潜む記憶や経験、身体に刻まれた無意識的な反応が、空気や光、温度、距離、場所の気配と静かに響き合いながら、私やその周囲に微かな影響を及ぼす——そんな、確かさと曖昧さのあわいにあるもの。
この空気感は日々変化し、掴もうとするほどに輪郭や存在を失っていく。
それでも私は、「ある人」がいないとき、ふとした瞬間に「あの人らしさ」が立ち上がるのを感じる。
また、誰かが触れた物や残した痕跡にも、その気配が宿ることがある。
たとえそれが「ある人」と関わりのないものであったとしても、それは記憶の投影かもしれないし、あるいは、もうひとつの時間が立ち上がる瞬間なのかもしれない。
本展では、私の日常で出会ってきた「石」「服と靴」「家とまち」「ある人」を起点に、物質と空間に向き合ってきた経験を通して、それらに潜む実在と不在のゆらぎに耳を澄ます。
それぞれのものに重なる記憶の層や、かすかに立ち現れる気配が、現実の輪郭を揺らがせ、私たちの知覚をわずかにずらしていく。
確かなものと不確かなものが重なり合う、誰彼(たそがれ)のふち。
私はその境界に立ちつづけ、日常の奥にひそむ並行世界の気配に触れる。
その揺らぎのなかでこそ、世界と向き合い、自らの存在を確かめ直すことができるのかもしれない。
「空気感」とは、捉えきれなさをそのまま受け入れる態度なのかもしれない。
保井智貴 Tomotaka Yasui CV
1974年生まれ。人の存在がもたらす「空気感」に着目し、その目に見えない気配や関係性を彫刻として可視化することを試みている。人物彫刻を起点に、町や家を彫刻に見立てるプロジェクト、彫刻のための服の制作など、空気と存在のあいだを探る多様なアプローチを展開している。
1974 ベルギー、アントワープ生まれ
2001 東京藝術大学大学院 美術研究科彫刻専攻修了
2006 アーティスト・イン・レジデンスThe Jerusalem Center For The Visual Arts/エルサレム
2006 ポーラ美術振興財団より国際交流助成を受ける。
Solo Exhibitions
2020 “だれかとなにかのなにか” MA2Galley,東京
2019 “Misty” void+,Tokyo
2019 “縦と横” アートのある「間」。 Shinjuku Prince Hotel+G, 東京
2016 “遠くにある意志” MA2Galley,Tokyo
2016 “空気にある、光と時間。” Mizuho Oshiro Gallery, 鹿児島
2014 “佇む空気/ silence” 箱根彫刻の森美術館
2014 “light” MA2Gallery,東京
2011 “Tranquil Reflection” Megumi Ogita Gaallery,東京
2008 “capsule” Megumi Ogita Gallery,東京
2007 “Suculpture” Megumi Ogita Gallery, 東京
2006 “保井智貴展” 中原悌次郎記念旭川市彫刻美術館, 旭川
2006 “Silence” Braverman Gallery,テルアビブ
2004 “YASUI Tomotaka Exhibition” SPACE-S, 東京
2002 “YASUI Tomotaka Exhibition” ギャラリーせいほう, 東京
Group Exhibitions
2025 こと芸2025, TOYTOYTOY, 香川
2025 瀬戸内国際芸術祭 春会期 -SAY YES- , 瀬居島, 坂出
2025 LA「zaicopass」, NADiff a/p/a/r/t, 東京
2024 “[VOID+STOCK]exhibition: part3” , void+, 東京
2024 “山形ビエンナーレ 2024 イン蔵王 山と土と茶と-SCREWDRIVER カントトモキチ-” , 鴫の谷地沼 ガーデンスペース, 山形
2024 “SCREWDRIVER 1st shot -SCULPLAY-” マツモトアートセンター, 松本
2024 “皮膚と骨 -モノコトグラデーション-” 彫刻家の家, 香川
2023 “みまちがう水” MA2Gallery, 東京
2023 “キオクハトキカ” Spiral Garden, 東京
2022 AGAIN-ST 10th Exhibition “ルーツ/ツール 彫刻の虚材と教材” 武蔵野美術大学美術館・図書館 展示室3, 東京
2022 “Window Gallery Project vol.3 「日常と非日常」樋口明宏, 保井智貴” MA2gallery, 東京
2022 “眠るドローイングを覗く” 彫刻家の家, 香川
2021 神宮の杜芸術祝祭 “気韻生動−平櫛田中と伝統を未来へ継ぐものたち” 明治神宮宝物殿, 東京
2021 “Window Gallery Project vol.2 袴田京太朗, 保井智貴” MA2gallery, 東京
2020 “高松コンテンポラリーアートアニュアル vol.09「時どきどき想像」” 高松市美術館, 香川
2019 “Small Infinity” MA2Galley, 東京
2019 AGAIN-ST 9th Exhibition “BREAK / BREAKER シュート彫刻のありか” 武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス 2号館 309・310 教室, 東京
2019 “内包された温度” 東京藝術大学大学美術館, 東京
2019 “Figurative Sculpture [the exploration of its novel ways]” ギャラリーせいほう, 東京
2018 “-組-guillemets + saruyama with MA2Gallery artists” MA2Galley, Tokyo
2018 AGAIN-ST Extra Edition 8th Exhibition 山形ビエンナーレ
2018 “カフェのような, 彫刻のような” 東北芸術工科大学 芸術研究棟Cギャラリー(ROOTS & technique), 山形
2018 “能+Art” MA2Galley, 東京
2018 “まちにある家という彫刻。そして空間のための家具” 彫刻家の家, 香川
2017 “Timeless—不存在的時間 Contemporary Japanese Art Exhibition” AKI Gallery, 台北(台湾)
2017 あいづまちなかアートプロジェクト“花苑と印” 御薬園御茶屋御殿/福島
2017 AGAIN-ST Extra Edition 7th Exhibition“OUTBOUND -彫刻シンポジウム外伝-” 金沢美術工芸大学大学院棟・展示室, 石川
2017 AGAIN-ST 6th Exhibition “平和の彫刻” NADiff Gallery /東京
2016 “再発見!ニッポンの立体” 群馬県立館林美術館, 静岡県立美術館, 三重県立美術館(2017年巡回)
2015 “Wabi Aabi Shima” Thalie Art Foundation, Brussels, ブリュッセル
2015 オープンシアター 2015「KAAT 突然ミュージアム」KAAT 神奈川芸術劇場, 神奈川
2015 “本展 Chapter 2” MA2Gallery, 東京
2014 AGAIN-ST 4th Exhibition “Sculpture is (not) Ornaments 置物は彫刻か?” 東北工科芸術大学, Gallery, 山形
2013 AGAIN-ST 3rdExhibition -彫刻を支えるものは何か-, 東京芸術大学, 東京
2013 AGAIN-ST 2nd Exhibition「首像」–自問するメディアとしての「彫刻」
2013 日本大学藝術学部江古田校舎 アートギャラリー / A&Dギャラリー/ ChikaEcoda, 東京
2013 “A STEP AHEAD OF STANDING STILL” DILLON GALLERY, ニューヨーク
2013 “calm stream” 芳賀家蔵, 会津若松
2012 “ -XYZ-” MegumiOgita Gallery, 東京
2012 “色めく彫刻-よみがえる美意識” 群馬県立館林美術館, 群馬
2012 AGAIN – ST 1st Exhibition, 東京造形大学 CS Gallery, 東京
2012 “メグロアドレス:Artist in Urban Life” 目黒区美術館, 東京
2012 “パラカーム” Busshozan-Onsen , 高松
2011 “The two geostationary objects” Art Center Ongoing, 東京
2011 “Satellite in Calm” Satellite, 岡山
2011 “Calm in Kgawa -Traveling in Many Sense-” 高松
2010 “漆のチカラ” 福島県立博物館, 会津若松
2010 “夜の庭” La Galerie 59 – Aftersquat, パリ
2010 “-calm- Tomoaka Yasui + STORE & Yuuki Ono” Book Gallery Wall, 東京
2010 “服と像” L.A.Tomari + STORE, ストア, 東京
2010 “-calm-, Tomotaka Yasui, STORE, Yuuki Ono, Dokyuncompany” Megumi Ogita Gallery, 東京
2009 “Japan Fantasy” Della Pina Arte Contemporanea, Pietrasanta, Luxembourg
2009 “第二回井の会” SPACE-S, 東京
2008 “人がつくる, ひと。” 文化フォーラム春日井・ギャラリー, 春日井
2007 “気・カタチが宿すもの” 中原悌次郎記念旭川市彫刻美術館, 旭川
2007 “-ケレン-主張する色彩” 東京藝術大学大学美術館陳列館, 東京
2007 “第一回井の会” SPACE-S, 東京
2006 “COOL 4” Gallery360°, 東京
2005 “-The Shop- 現代美術の着心地” , 東京
Public Collection
中原悌次郎記念旭川市彫刻美術館
東京藝術大学大学美術館
Thalie Art Foundation
箱根彫刻の森美術館
Award
2025 香川県文化芸術選奨
2005 第34 回中原悌二郎賞優秀賞受賞
Me and garden, home and town, you and something》2000, 映像, 13'00
He and Someone -A Memory of Air Ⅱ-》2025, ウール, 800×600 mm
She and Someone -A Memory of Air Ⅱ-》2025, ウール, 830×650 mm
His Blue -The Man Who Works at Night-》2024, ラピスラズリ, 27x24x3 mm
He and Someone -Underfoot-》2025, 牛皮, 100x290x195 mm
She and Someone -Underfoot-》2025, 牛皮, 95x270x180 mm
He and Someone -A Memory of Air- (左)
彼と誰か -身体の記憶-
He and Someone -A Memory of the Body- (右)》2025年, カシミア(左),コットン(右), 70x150 mm
She and Someone A Memory of Air-(左)
彼女と誰か -身体の記憶-
She and Someone -A Memory of the Body- (右)》2025年, カシミア(左),コットン(右), 90x120 mm
His Blue -The Man Who Worked with a Jewish Man-》2024年, ラピスラズリ, 30x29x4mm