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和田昌宏「Rμv-1/2gμvR=(8πG/c^4)Tμv」

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リビングに寝そべる巨大な蝿、崩落する金塊の山、炙られる木製のケバブ、山道を疾走するサラリーマンと山姥—これまで和田昌宏が作中に採り上げてきたモチーフは、極めて多彩です。しかし一見カオティックなこれらの要素は、ひとたび和田の手によって構成されることで、名状しがたいメッセージや物語の気配を放ち始めます。そして作品の姿形が変わろうとも、そこには彼のオリジナリティに満ちた世界が立ち現れるのです。

近年の和田作品における特徴の1つは、大掛かりな可動式のセットと、ストーリー性を持った映像の融合であるといえます。たとえば《主婦のためのスタイリッシュなハエ》(2012年)には、ドラム型洗濯機のように激しく回転する部屋や、そこで暮らす巨大な蝿と主婦などが登場しました。人物やセットは映像の中に収められていることもあれば、画面を飛び出して展覧会場にテリトリーを広げることもあります。和田にとって「映像」や「彫刻」あるいは「インスタレーション」といった様々な表現手段は渾然としてひとつです。

今回の個展の企画段階には、作家の断片的な言葉と、そこから導き出された展覧会タイトルと1枚のドローイングがありました。まず和田が挙げたのは「燃えながら転がっていく球体」「個室ビデオ」「マクロな宇宙的視点から観たミクロな個」などのキーワード。タイトルの数式はアインシュタインの一般相対性理論における「重力場の方程式」で、ドローイングに描かれた網目状の曲線も重力場がモチーフです。これらの題材は映像を基軸にした1つの作品にまとめられていきますが、最終的にどのような形式・内容になるのかは作家本人を含め誰にも予想がつきません。和田の触手によって集積されたアイディアやモチーフは、いつも完成直前まで重ねられる迷宮的な実験と配合の末に最終形態へと集束するからです。

さらに地下1階の展示には、和田が活動の拠点とする「国立奥多摩美術館(MOAO)」のメンバー数名も参加。彼のホームベースともいうべき奥多摩の異空間が代官山の地下に出現します。

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[アーティストトーク]

7月23日(土)17:00 ‒
出演:和田昌宏 × 藤原隆男(京都市立芸術大学 教授)
トークゲストは宇宙物理学を専門とする藤原隆男教授です。宇宙や重力といったモチーフが重要な意味を持ち、アインシュタイン方程式がタイトルにすえられている今回の展覧会。宇宙、物理、そしてアート……様々なジャンルを縦横無尽に駆け巡るトークの展開が予想されます。イベントの観覧は無料です。ぜひお気軽にお越しください。

▼藤原隆男(ふじわら たかお)
1953年兵庫県生まれ。1983年京都大学大学院博士後期課程(宇宙物理学専攻)修了,理学博士。専門は銀河力学,宇宙論。1985年より京都市立芸術大学美術学部で物理学,数学などを担当。2000年代にはJAXAと京都市立芸術大学との共同研究「宇宙への芸術的アプローチ」に参加。現在,美術学部教授。