EXHIBITIONS
小山真由子「Passion」
- Information
- Works
- DATE
- 2023-07-28 [Fri] - 2023-08-26 [Sat]
- OPEN TIME
- 11:00-19:00[tue-sat]
- CLOSE DAY
- Sun, Mon, National holidays ※休廊日変更にご注意ください
◯作家在廊日:毎週土曜日
◯オープニングレセプション:7月28日(金)17:30-19:30
眺める
音を感じる においも
そこにいる
空気のなかに感じること
鳥の声が耳に来て
ほんとうにあったような昔のことが心に触れる
それをゆっくり味わう
遠い折に過ぎていったさまざまな人々が意識に交わる
それを絵にする
(小山真由子)
LOKO GALLERY はこの度、小山真由子による初個展「Passion」を開催致します。
小山は1978年、広島県生まれ。ロンドン芸術大学チェルシーカレッジオブアート・ファンデーションコースを修了後、2018年に東京藝術大学修士課程(油画)を修了し、現在は東京を拠点にオイルやコラージュ、ドローイングや銅板などを用いた抽象絵画を制作しています。
これまでの自身の実践における集大成ともなる本展では、オイルによるクラウドフラワーシリーズに加え、コラージュ手法を重ねたスケッチブックシリーズ、ドローイング作品「デメテル」が展示されます。
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広島県福山市で育ち、その原風景に自然環境がある小山。幼少期から牧歌的かつ寓話的な空想に浸る傾向があったという彼女は世界初の風景画とも言われ、その象徴的な雲と稲妻で知られるジョルジョーネの著名な絵画「テンペスタ」を見た時、写実という枠での理解を超えたその不思議な違和感に惹かれたといいます。母子図の描き方や配置などから宗教性や物語性を排除したともされるこの絵はルネサンス期のシエナ派絵画の示す平面性にも通じるものがあり、その何処かねじれを感じさせる画面にある種の濾過装置の発動を感じた小山は、そのようなフィルターが抽象の現れへ繋がると考えます。
哲学者で美術史家のダミッシュが『雲の理論』において、視覚の近代を統合する手段としての遠近法について「雲」という実測不可能な要素を採用しある一点から全体を見る視点を不安定にさせたように、小山の何層にも塗り重ねられたクラウドフラワーのオイルペインティングや、過去の自作上に多様なメディウムによるイメージが積層され切断された作品シリーズは、その全体を一望する視点をある種撹乱するような実践を通して「部分的全体」を炙り出そうとしているようにも見えます。彼女が引く「何かしれぬ情動的なものに 浸されてある感覚と『まとまりのある世界』へと自分が織り込まれているような感覚」*1は、そこで定まった形を持たない物質のように描き出されます。そしてそれはまた、彼女自身が語るように生活の中での意識やそれまでの自身を上書きする行為でもあるのです。
小山にとって、本展の核ともなるクラウドフラワーはモチーフであると同時に、その後の彼女の制作における重要な契機であったといいます。生活スタイル(生き方)としての抽象画を選んだ女性作家の先達に想いを馳せながらそれまでの自身の人生における葛藤を経て、彼女は自分に課していた思い込みや枠を外し、生活における制作パターンと反復の実現に注力できる環境を整えます。小山にとってクラウドフラワーは自画像であり、そこに自身の女性性や人間の両義牲、普遍的人間としての形を見ています。最前面にグリッドが 施されたシリーズでは、空間性表出への試みに加え、その背後にうごめく曲線の揺らぎとグリッドの規則性とのコントラストが彼女の中に共存する両義性を示しているかのようです。そして小山はその営為に自身のコントロールを超えた未知の可能性に「連れていってくれる」気配を感じると話します。それはヴァレリーが(画家は)「自分の身体を運ぶ」*2と言及したように「身体を世界に貸すことによって世界を絵に変える」行為なのかもしれません。
”芸術家の自由なる頭脳は、感光版のよう、ただの受信機でなくてはなりません。(中略)
気長な仕事や熟考や勉強やさまざまの苦労、そして喜び、つまり人生というものが、この
感光版の下準備をしてきた。(中略)我々の頭脳と宇宙が接する場は、色彩です。(中略)
なんという勢い、、なんというメランコリア。”(ジョアキム・ガスケ『セザンヌ』與謝野文子訳)
自身の身体の動きに伴って現れたというコラージュ手法を用いた作品には、友人から譲り受けた紙袋の一部や切り取られた古書、日常で使用しているペーパータオルなど、生活空間に存在する物が使用されています。小山はその実践を、意識の水面下で「身体的、官能的なリアリティが出ることを感じた」からかもしれない、と分析します。彼女が絵画の延長として考えるこれらの作品には物質の力と絵の具の筆致が組み合わされ、観る者に触知性への期待感とそれに伴う身体感覚を促します。観る手触りを通して溶け出すような共感覚が、展示空間に解き放たれていきます。
(山越紀子|インディペンデント・キュレーター)
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*1 文学者・清水徹による小説家・辻邦夫に関する言葉
*2 フランスの詩人・評論家。「芸術家は自分の身体を運び、あとじさりし、なにものかを置きまた取り除き、その全存在をあげて、まるで自分の眼のように行動し、かれ全体が、自らを調整し、自らを変形させるひとつの器官となり、像が明確に映る1点を、奥深くはるかに求めている作品に –ひとの求める作品ではかならずしもないような作品に– 潜在的に属している唯一の点を求める」(『ヴァレリー全集』第四巻、筑摩書房)
小山真由子 CV
1978年 広島県生まれ、東京都在住
<主な経歴>
2006年 Chelsea College of Arts(イギリス・ロンドン)ファンデーションコース修了
2018年 東京藝術大学大学院修士課程(油画)修了
<主な展示>
2011年 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展(グループ展)、板橋区立美術館、東京
2012年 トーキョーワンダーウォール(グループ展)、東京都現代美術館、東京
2013年 個展「Song」TWS-Emerging2013、トーキョーワンダーサイト本郷、東京
2014年 Face(グループ展)、SOMPO美術館、東京(+2016年)
2017年 Rever2074 (グループ展)、東京藝術大学美術館(上野)、東京
2022年 個展「いまここにある風景と抽象絵画の意味」藤沢市アートスペース(自主企画)、神奈川
2023年 「Penguin Site Vol.1 小山真由子・白帆ひろみ 2人展」 Penguin’s House Green 、神奈川