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《この遠くにある部屋では、暖房が焚かれていて、乾燥しているが温かい。今日は雨が降っているらしいが、この部屋の中では水の打つ音が聞こえるのみである。 この遠くにある部屋ではむかし、二人の人間が生活していて、一匹の猫もいた。この猫は飼い猫ではないのだが、しょっちゅうそこへ行っては何か食べものをもらっていた。また二人の人間は愛しあっていたが、体は二人とも女の形をしていたので、交わっても子を作ることはなかった。 この遠くにある部屋には一つだけソファがあり、二人はいつもそこへ座って会話をしていた。二人は喧嘩をした事はなかったが、相手の悲しみへ共感するあまり互いに苦しく辛くなる事が度々あった。相手の職場であった理不尽なこと、相手の考える政治的な問題、相手の親の不幸、そのすべてが互いに完全に共有できるものだった。 この遠くにある部屋にはドアがなく、ドアがないので二人の人間と一匹の猫はいつも窓から出入りしていた。 いつだったか一度だけドアを作る提案を誰かがしたが、計画だけ立てて流れてしまった。そんなことだから、部屋には来客者も窓から入れなければならず、その罪悪感から二人はあまり人を呼べなかった。 》 2021、麻、綿、石、パステル、木炭