EXHIBITIONS

ヴォルデマース・ヨハンソンズ「不安定装置」

  • Information
  • Works

ヴォルデマース・ヨハンソンズ(Voldemārs Johansons)は、ラトビア,リガをベースに活動する作曲家であり、現代美術作家です。
音や光、映像などの様々なメディアを用いた、まるで実験装置のようなインスタレーション作品は、科学的なリサーチに基づき精密に設計され、人間の知覚と環境との関わりについての考察が込められています。

たとえば、リガ大聖堂で発表された“Op.39 (standingwaves)”は、聖堂の中庭にパイプオルガンを模した鋼管が彫刻のように立ち並ぶ中、空気の流れによって生み出される様々な低音が、周辺の温度や風、鑑賞者の立ち位置などの影響を取り込みながら変容します。

また、2015年の“Thirst”は、北海の岩場から超高画質撮影した波濤の映像をパノラマスクリーンとサウンドシステム、スモークマシンを使って上映する作品で、鑑賞者は打ち寄せる波と嵐の轟音、圧倒的な自然の姿をまるでその場にいるかのように体感することができます。

日本では初の発表となる本展でヨハンソンズが選んだテーマは「不安定性」です。散逸構造論で知られる物理学者イリヤ・プリゴジンは「不安定さと創造性は私たちの世界に内在している」という言葉を残しました。それは、自然界の法則の、“予測不可能であるがランダムではない”という性質が、アートやデザインの実践、そして人間の創造性や想像力に大きな影響を与えるということを示唆しています。

本展で発表される新作のサウンドインスタレーション「Uncertainty Drive(不安定装置)」には、微量の放射性物質を含んだサンプルが使用されています。

放射性物質は、その不安定な原子核が崩壊を起こす瞬間に放射線を放出します。放射性崩壊の確率上の頻度は物質により決まっていますがそれがいつ起こるのかは予想できません。本作では、予測できないタイミングで放出される放射線をガイガー=ミュラー菅が感知し、そのデータをもとに「楽器」がその場で音を作り出します。放射線による展示空間の目に見えない環境の変化はアートワークを通じて可聴化されます。

放射線は人間の五感では感知することができません。しかしそれは様々なかたちで自然環境にあまねく存在し、エネルギーや医療、バイオテクノロジー等の分野で人間の営為にも深く関わっています。また、核兵器や原子力発電の存在については現在も多くの議論がなされており、未だ解決の道筋さえ見えない大きな課題として我々の前に横たわっています。

ヨハンソンズの作品は、知覚できないものを捉えるための想像力を喚起するとともに、環境と人間を繋ぐインターフェイスのように機能します。
そして、私たちの置かれた情況が、物理的にも、社会的にも多様な不確定要素によって複雑に成り立っているということを再認識させるのです。

協力/助成:駐日ラトビア共和国大使館

ヴォルデマース・ヨハンソンズ / Voldemārs Johansons
1980 年ラトビア、リガ生まれ。 オランダ、デン・ハーグの Royal Conservatoire, Instutute of Sonology にて電子音楽を学ぶ。卒業後は音響や視覚、空間 領域の接続について研究を深め、芸術と科学技術の融合を目指した数々のプロジェクトを手がける。現代美術作家として 世界各地で作品を発表する傍ら、作曲家や研究者としても活 動する。 ヨハンソンズの作品はこれまで、ヴェネツィア建築ビエンナーレ、アルスエレクトロニカセンター、BOZAR(ベルギー)、 ルールトリエンナーレ(ドイツ)、STEIM(オランダ)、 LISTE ART FAIR(スイス)、ラトビア国立オペラ、コーチビエンナーレ (インド) などで発表されている。

ARTIST PROFILE: ヴォルデマース・ヨハンソンズ