幸田千依
より道の灯

2018年6月22日(金)‒ 7月28日(土)

[火 ‒ 土] 11:00 ‒ 19:00
[日・月・祝] 休廊

 

[オープニングレセプション]
6月22日(金)18:00 ‒
*19:00頃より 53235 氏による弾き語りライブを開催いたします。

一人歩く道すがら ふと 景色に見つめられていることに気がつき 立ち止まってしまう時がある
自分のこれまでと 今 目のまえが邂逅し 景色と目が合う瞬間だ
その時私は 景色 と呼ぶものの中にある全てが そこに「すでにあった」こと と
それを知覚する「自分がいたこと」の両方を強烈に意識する
景色と見つめ合いながら 視点は大きく伸び縮み 境目にある皮膚に鳥肌が立つ
ふつふつ力が湧くような 目が離せなくなるような 大いなる肯定の感覚に打たれる
高揚した意識は目を輝かせて 広がる景色をさらにはっきりくっきり確かめる

起こるまでは予測不能なようでいて 後々振り返ると いちいちピタリと合致 もする
自分と アラウンド ザ 自分以外のものの作用
すべてが絶えず動いて明滅する星のようで それぞれの軌道 その無数の交差の中 意識と景色は引き合っているように思う
それが どうも二つの目のあたりで不意に 出会うように思う
全てひっくるめた感覚を 状態を 目に焼き付け 覚えていたい そこに否定は有り得ない
そのシーンはいつまでも消えず 周囲も自分も見えない暗闇の途中にも 確かな灯りになるはずだから 星を動かすものだから

それを絵にする遅さは現実だが それでも出来うる限り描き
毎度毎度の事ながら 泣いたり笑ったりの中で 誰かの肩をつついて横に並び ほら、など言って束の間 その灯りを共にみたい
それぞれの道の途中 無数のより道でまた出会いたい

 

*

 

画家・幸田千依による個展「より道の灯」を開催いたします。国内外各地のレジデンスプログラムへの参加を軸にした活動や、2017年のVOCA賞受賞などでも注目を集めてきた幸田は、近年その制作のモードにさまざまな変化を見せています。

彼女の作品の特徴の1つに、多数の視点が1枚の絵画上で統合される点が挙げられます。幸田が描く景色や人物の多くは実際に彼女がその目に映してきたものですが、1つの画面上に1つの瞬間だけが描かれる、ということはあまりありません。たとえばかつてプール監視員のアルバイトを務めていた頃、長いあいだ彼女の網膜に焼き付いていたのは、水中を移動する群衆とそれに伴って発生する渦巻きの様子でした。彼女はそのモティーフをたびたび画中で取り上げてきましたが、それらの作品のいくつかにはその時々で記憶に残った山や森などの別の光景、あるいは政治デモやインターネットといった社会的要素が加えられています。異なる時空間に紐付いた複数の視点たちは、幸田の確かな実感のもとに合成されることで新しい美しさや奇妙さを湛え、絵画上にしか存在しえない “プール” の光景を私たちに提示してきました。

近年の幸田は、視点の複数性という特性を保ちながら、より広範な視野を絵画上で展開する傾向にあるといえます。太陽や空が支配する遠景、小さな家や道の密集=街並みからなる中景、そして自らの視座の存在を示すかのように草木が繁茂する近景。これらが1つの画面上で統合された作品群は、一見すると平穏な風景画のように見えるかもしれません。しかしこれらの作画過程で幸田は、単に印象深かった風景を組み合わせるのではなく、自らの視線、さらに言えば眼が動いていく際の個人の “癖” のようなものを自覚することを常に強く意識してきました。そしてそれは絵の描き方への自覚、加えて自らの人間性や思考、社会的な立ち位置の自覚へと敷衍されていきます。その上で幸田は、今見ることのできる景色のあらゆる要素に—良きものにも、好ましくないものにも—“なんらかの視線” を注ぐような制作を目指してきました。彼女の絵画の中では、遠景でも近景でも、全てのものに均質的な色と形のバランスが与えられています。ここで端的に示されているのは、自らの移ろう視点や自分を取り巻くあらゆる要素を画面上で調和させ、1つの光のもとで肯定する、という意志です。いわば画中の主役を明示しないその筆触の均質性は、鑑賞者に自分自身の視点で絵の中を歩き回ることを促し、絵画と対峙する自らの視座を自覚させる機能をも有しているでしょう。こうしたさまざまなインタラクティブな作用を経て、幸田の絵画はさらなる複層的な視点を獲得していきます。

本展では、これまで地方でのレジデンスを中心に活動してきた幸田にとっては珍しい「渋谷でのレジデンス」という経験と、そこで遭遇した “小さな夕方の冒険” をもとに生み出された1枚を含む最新作品群、そして現在に至る視野の変化が読み取れる過去作品群を同時に展覧いたします。印象派やキュビズム、あるいはシュルレアリスムといった近現代絵画の血脈を感じさせつつ、自らの現代的 / 現在的な “生” そのものを着実に絵画化していくかのような幸田千依のダイナミックな作品群をお楽しみください。